2022年8月にweb受験した「図書・図書館史」の科目終末試験の問題と解答例になります。
見直せば修正したい箇所は多々ありますが、試験で実際に提出したものをそのまま掲載させていただきます。少しでも参考になればと思います。
*注* 解答例の丸写し提出は大学より禁止されていますので、参考程度に留めて下さい。
「図書館・図書館史」科目終末試験〜2022年8月問題〜
アメリカにおける図書館発展の根底に流れる思想について述べてください。
*字数制限なし
「図書館・図書館史」科目終末試験〜解答例(100点)〜
アメリカは1620年に植民地の歴史が始まり、1776年に独立宣言によって英国から独立した。アメリカで最初の本格的な公共図書館は1854年に設立されたボストン公共図書館であるが、それ以前にもソーシャルライブラリーといわれる各種の会員制図書館が存在していた。アメリカの図書館発展の歴史を踏まえ、その根底に流れる思想、民主主義における図書館について述べる。
ヨーロッパから移住してきた開拓者たちにとって、一番大きな問題は、この未開の土地でいかに自然と闘い生活していくかであった。精神の拠り所としての聖書、神学書、医学、農学、科学、さらに自習書など実利に関する書物を本国から輸入してきた。これらがアメリカにもたらされた最初の本であった。初期植民地時代の教育水準は当然期待されるほどのものではなかったが、新しい土地を切り拓き、新しい政府を樹立する思想に燃えた彼らにとって、学問に対する熱意は高く、それがアメリカの図書館をめざましいものにしていく推進力となった。 アメリカ以外の国々の図書館の発展は、権力者が権力により、また貴族や一部特権階級の人々画素の財力によって図書館を造り、成長していく傾向にあったが、アメリカは会員組織の図書館に見られるように、自立精神に立脚し、民衆の手による民衆のための新しい図書館を造り上げ、発展していった。
会員制図書館として、例えばベンジャミン・フランクリンの造ったフィラデルフィア図書館会社がある。会員がめいめい本を持ち寄り、自由に借りることが提案された。実行してみると思うようにいかない面も多分にあったが実に有益であることが分かったので、公共の組合図書館を始めようと企て、規則を作成し、会員を募集した。このようにして出発した会員制図書館は次第にふくれあがり、法人組織に発展していった。フランクリンの始めた会員制図書館は、中流階級あるいはそれ以下の貧しい人たちを対象としたもので、職工や商店などで働く人たちの教養を満たす庶民の学校として歓迎された。今日の公共図書館の先駆をなすものであった。そもそもの図書館の始まり方が、民衆の自立精神に基づいているのである。
アメリカにおける公共図書館は1848年、ボストン市が公共図書館建設の特別例を施行したことに始まる。これは図書館が法的に確固たる基礎を与えられたことを意味しており、他の州にも続々と波及した。おそらくこの法律が、近代における図書館法として世界で最初のものと思われる。無料の公共図書館が成長していった背景には、教育の普及、わけても無料制の学校が開かれ、その理念が社会教育機関の一つとしての図書館にも影響を及ぼしたとみることができる。ボストン公共図書館は、最初から理事会制度を採用して運営された。管理形態が民主的であったことが、この図書館を成長へと導いた。
その後近大図書館への道を歩むこととなる。1876年はアメリカの図書館ばかりでなく、世界の図書館界を揺るがせた注目の年であった。現代への幕開けである。具体的には、アメリカ図書館協会(ALA)の誕生、最初の図書館専門雑誌の発刊、十進分類表の発表、「辞書体目録規則」を刊行、レファレンスサービスの提唱、図書館概要兼ハンドブックの出版などの出来事が起こった。ALAは、アメリカにおける強力な図書館団体として、その振興に寄与することとなる。また、実業家カーネギーにおいては、アメリカの成熟した資本主義の時代にあって、「機会の平等」を目指した思想の産物としての成功者による図書館の寄付は、まさに「図書館の守護神」といわれるに値する。
そして現代、ニューヨーク公共図書館においては、市民による市民の図書館が作り上げられている。この図書館には社会を活性化させる力がある。日本の図書館は受動的な情報の接し方だが、アメリカは情報を「道具」として主体的に活用している。プラグマティックな考え方がこの国の伝統として底に流れている。公共図書館の充実は、組織の後ろ楯をもたない市民の調査能力を高める。新規事業の誕生を促し、経済活動を活性化させる。文化、芸術関連の新しい才能を育てる。図書館はまさに「知のインフラ」である。
これらアメリカの思想について、民主主義である日本において学ぶべき点は多い。地方創生というが、上から束ねるのではなく、地域からの自発的内発的な立ち上がりの環境を、どう整備するかと考えると、図書館の果たす役割は大きい。図書館は、情報の真偽を確かめ判断できる人を育て、民主主義の質を高める基盤となる。学校教育は義務としての機関であるが、図書館は赤ちゃんとしておなかにいるときから、生きている長い間の自己教育機関である。自発的に学びたい人を援助するほか、やりたい気持ちを起こさせることも図書館の役割である。その意味で、大事な生涯にわたる教育機関である。アメリカの思想を知り、日本における図書館のあり方を考え、健全な民主主義の実現を目指し、市民一人一人の自立と社会参画を推進していくべきである。
(2048字)
感想
今回の設題は、「科目終末試験問題」に類似問題はありませんでしたが、設題4・5で問われていた「図書館史を学んで◯◯を述べてください」のところでアメリカについて書こうと思いまとめていたので、一部参考にすることができました。また、過去問で「民主主義にとって公共図書館の役割」について問われる問題がありましたので、その時に調べた「民主主義の砦としての図書館」という記事が大いに参考になりました。
解答で意識した点としては、設題に「図書館の発展」とあったので、アメリカの図書館の歴史を記述し、それぞれの時代で他国とは違うアメリカならではの思想からの図書館の成り立ちを記述するようにしました。また、アメリカの記述で終えずに、その思想を踏まえ、日本の図書館の発展にどのように活かせるのか、という点を記述するようにしました。
「科目終末試験問題」 4.図書館史を学んで、よかったと思う点を述べてください。 5.図書館史を学んで感じたところを自由に述べてください。

この設題は私にとってはラッキー問題でした。「図書・図書館史」を学んでいく上で、最も印象に残った、魅力的に感じた内容が、アメリカの図書館発展についてだったからです。アメリカは歴史が浅く、テキストでも「日本の歴史」「西洋の歴史」が大部分を占め、アメリカについての記述は多くありませんでした。ですが、その根底にある思想と発展のあり方が本当に魅力的であり、日本の目指すべき図書館のあり方なのかな、と感じました。

このように私が感じるのは、現代の日本が民主主義であり、また戦後はアメリカの力を借りて復興してきた歴史を持っているからなのか、場合によっては少し偏った考えになってしまっているのか、は今のところわかりません。ただ現時点では、こういった図書館を実現すると、なんだか世界が良くなる感じがしています。ただただ日本の「根底に流れる思想」というものをそう簡単に変えられるのか?どんなきっかけがあれば変われるのか?ということは考えていたいと思います。
今後、世界の図書館のあり方を学びつつ、広い視点を持って自分なりの答えを見つけていきたいです。
試験で使った参考資料
「図書・図書館史」を受験するために必要なレポートについては、別で記載しています。
科目終末試験について、総論的なことを記載しておりますので、参考になれば幸いです。